古事記とは…
古事記は、和銅5年(712年)に成立した日本最古の歴史書です。天武天皇が作成を命じて、太安万侶が編さんしました。いわゆる「大化の改新」のときにいくつかの歴史書が燃えてしまったため、新たに「一冊でわかる」歴史書を作ろう、ということになったようです。稗田阿礼(ひえだのあれ)という人物が、燃えてしまった歴史書を含め記憶し誦習(しょうしゅう)しました。つまり、そらで言えるだけでなく、よく歴史書の内容を勉強し読み解くことができた、ということです。古事記は、この天才稗田阿礼と、努力の人である太安万侶の尽力によって、成立しました。
序を読むと、太安万侶がその表記にとても苦労したことがうかがえます。当時は漢文で読み書きをするのが普通でしたが、「やまとことば」の音を残さなければ内容を正確に伝えることのできない部分がある(たとえば和歌)、と考えた太安万侶はおおいに悩みます。そこで採用したのが一音に一字をあてる、いわゆる「万葉仮名」でした。漢文にやまとことばを表す漢字を混ぜることで、日本語の語感を損なわず、正確に意味を伝えるという難題をクリアしました。
さて、古事記は歴史書といっても、日本の成り立ちや神生みなどの神話を含んでいます。この神話部分にはよく知られた「因幡の白うさぎ」や「天の岩屋戸」、「八またのオロチ」伝説などがあります。神話は物語の祖といわれます。英雄譚、異世界往来譚、異種婚姻譚など、さまざまな物語の類型が詰まっていて飽きることがありません。ときには残酷で、ときにはエロチックで大胆な物語群。それらの物語を語り継ぎ続けたわたしたちの祖先の、とても自由でおおらかな気質にふれることができるでしょう。
国生みから始まり、推古天皇朝までを記載した古事記は、まさに「一冊でわかる」歴史書であり、あらゆる物語の祖である神話の世界です。
橘 雪子